SSS-あの日あの時 自作 Liner Note/Short Short Story 2009年05月25日 拙作(sm5909412)のセルフ補完 --- 今日はよく晴れている。風の強さも、ちょうどいい。 春から夏へ。 その移り変わりの途上にある初夏の入り口に立って、私は窓の外を見る。 入り込んできた風で揺らぐカーテンの向こうで、洗濯物も同じように揺れている。 ひらひら、ゆらゆら。 そして、それをすり抜けて届く太陽の光。 きらきら。 思いがけない眩しさに、一瞬目をつむる。 その時、呼び鈴が鳴った。 私は猫のように横たわっていた体を起こして、玄関に向かう。 窓と反対側の方向にある玄関は、少し薄暗くひんやりとしている。 飾り気のないドアについた小さなレンズの向こう側。 そこにあの人がいる。 驚きはない。激しい感情のうねりもない。 ただ心の水たまりに、静かな波紋が広がってゆく。 鍵を外して、ドアを開ける。 時間は経っても、私が見るあの人はやっぱりあの人のままだ。 同じじゃないのに、同じだと感じる。 「春香」 「―何ですか、プロデューサーさん」 「ただいま」 「おかえりなさい」 少し間をあけて、もう一度言う。 「おかえりなさい」 PR